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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)686号 判決

理由

日華興産株式会社が控訴人に本件約束手形二通を振出し、控訴人が右手形二通をいずれも拒絶証書作成義務を免除して白地裏書により被控訴人に譲渡したこと及び被控訴人が右手形のうち金額三〇〇〇万円の手形を満期の翌々日に、金額四〇〇万円の手形を満期の翌日に支払場所に呈示したが支払を拒絶され、現に右手形二通を所持していることは、当事者間に争がない。《証拠》を総合すると、日華興産株式会社は、昭和三九年初頃被控訴人に約五〇〇〇万円の債務を負担しており、これを保証する趣旨で、右債務支払のため、同会社の代表取締役林益謙がその副組合長として在任していた日華信用組合宛の約束手形を振出し、同組合は、被控訴人に右手形を裏書譲渡し、日華興産株式会社の支払延期の要請により右手形は何回か書替えられたが、このようにして書替えられた手形のうち満期が昭和三九年五月二三日のものは別紙目録記載の一八通の手形であり、このうち金額五〇〇万円のもの八通及び金額一〇〇万円のもの一通は元本の支払のため振出されたものであり、金額七万五〇〇〇円のもの九通は利息の支払のため振出されたものであること及び後記認定のように日華信用組合において日華興産株式会社の被控訴人に対する債務支払のための手形に裏書することを拒絶したため、右一八通の手形のうち金額五〇〇万円のもの八通につき日華信用組合に代つて控訴人が裏書することとし、日華興産株式会社振出の約束手形について控訴人が裏書きしたのが本件手形のうち金額三〇〇〇万円のものと甲第七号証の手形であることが認められる。

控訴人は、本件手形二通の裏書譲渡は、日華信用組合の裏書のある前記一八通の手形(以下旧手形という)を手形交換所に呈示しないで、これを控訴人に返還するのと引換になされるべき約、すなわち右呈示を解除条件とするものであつたと主張するので、按ずるに、《証拠》を総合すると、被控訴人は、旧手形については支払を希望し満期前に予め日華興産株式会社にその旨を申入れるとともに、満期の昭和三九年五月二三日から同月二六日まで旅行のため東京を離れる都合上前日の五月二二日に取引先の芝信用金庫田村町支店に取立を委任したが、留守中のことを慮り、自己が経営する東和企業株式会社の役員滝沢恵吉に対し、右取立委任のことを告げるとともに、日華興産株式会社から支払延期の要請があつた場合には、従前どおり日華信用組合の裏書か当時後任理事長の噂の高かつた同組合の理事控訴人個人の裏書のある日華興産株式会社振出の約束手形を差入れるときに限り、支払の延期を承認してよい旨旧手形についての処置を依頼し、一方、芝信用金庫田村町支店に対しても、取立を委任した旧手形の支払につき日華興産株式会社から何らかの申出があつた場合の処置については滝沢恵吉に依頼してあるから同人に連絡するよう伝え、同月二三日旅行に発つたこと、従つて、芝信用金庫田村町支店では右手形を直に受託銀行たる株式会社住友銀行に交換のため持出すことなく、最終取引日の前日である五月二五日(五月二四日は月曜日)に同銀行に持出したこと、他方、日華信用組合においては同月二二日控訴人が新組合長に選任され、同月二五日開催の同組合理事会において、被控訴人に対する債務支払のため日華興産株式会社が振出した約束手形については保証のための裏書をしないことを決議したので、同会社代表取締役林益謙は、右一八通の旧手形が手形交換所において呈示された場合、日華興産株式会社には手形金全額を支払いうる資金がなく、又、右手形の支払場所に指定されている日華信用組合が東京銀行協会の加盟銀行たる株式会社大和銀行との間に締結せる代理交換契約に基いて、東京手形交換所に差入れておる保証金も僅少にして、受託銀行たる株式会社大和銀行が決済すべき交換尻不足金を即座に同銀行に払込むだけの資金もなかつたところから、日華興産株式会社が取引停止処分を受けること及び日華信用組合が代理交換委託者たる資格を喪失することをおそれ、同月二五日夕刻右理事会の席から滝沢恵吉に電話し、同組合理事王輝及び控訴人とともに、右一八組の旧手形のうち金額五〇〇万円のもの八通については控訴人においては保証のための裏書をした新手形を差入れるゆえこれと引換に手形を返還するよう要請したところ、滝沢恵吉から、旧手形は既に芝信用金庫田村町支店に取立委任済であり、同支店に電話で連絡したところ、既に時刻が午後六時頃で係りの者が退行して居ないので、旧手形取戻のことは確約しかねるとの返事であつたので、更に依頼返却の手続を希望する旨申入れ、滝沢恵吉から明二六日午前一〇時頃同支店まで控訴人裏書の新手形を持参するようにとのことであつたので、控訴人は、これを諒承し、その場で本件手形のうち金額三〇〇〇万円のもの及び甲第七号証の手形に裏書をし、これを被控訴人に交付すべく、翌二六日林益謙をして芝信用金庫田村町支店に持参せしめたところ、旧手形は、すでに交換のため持出されておつたので、林益謙は右新手形二通を滝沢恵吉の使者池田正に交付するとともに、旧手形について依頼返却の手続をとるように依頼し、池田正は右手続をとつたので日華興産株式会社は取引停止処分を免れたことが認められ、原審証人王輝の証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前顕証拠に対比して措信できず、他に控訴人のこの点についての右主張事実と認める証拠はない。又本件手形のうち金額四〇〇万円の手形は、《証拠》によれば、本件手形のうち金額三〇〇〇万円の手形と同じく、日華興産株式会社の被控訴人に対する満期昭和三九年五月二七日の約束手形につき手形債務を保証する趣旨で控訴人において裏書譲渡したものであり、満期が五月二三日以後に到来する関係上該裏書は右三〇〇〇万円の手形裏書の数日後になされたものであることが認められるが、右裏書が控訴人の主張するような解除条件付であつとたの事実は前記金三〇〇〇万円の手形におけると同様これを肯認する証拠がないのみならず、それに対応する旧手形が手形交換所において呈示されたことを認める証拠もない。

そればかりでなく、前認定のように本件四〇〇万円の手形裏書は本件三〇〇〇万円の手形裏書のなされた昭和三九年五月二六日の数日後になされたものであり、当審における控訴人本人の供述によれば、控訴人は五月二六日昼頃には旧手形振込の事実を知つていたのであるから、控訴人は旧手形振込の事実を諒知した上本件四〇〇万円の手形裏書をなしたものと認められること、さらに《証拠》によれば、控訴人は同年六月中頃日華興産株式会社のために裏書した前記各手形につき、裏書人としての義務の存在することを前提として、自からこれを履行した場合に同組合に対し取得すべき権利を確保するために、熱海市日向山所在の土地につき同組合の有する権利の譲渡を受けていることが認められることは、控訴人の本件手形二通の裏書が控訴人主張のような解除条件付でなかつたことを裏付けるものである。

右の次第で、本件手形の裏書が解除条件付であつたとの控訴人の主張は排斥すべきであり、その他裏書についての要素の錯誤本件手形交付についての林益謙の無権限に関する控訴人の主張の理由のないことも叙上説示するところによつて自ら明らかである。また前段認定の如く、本件手形の控訴人による裏書は従来の日華信用組合による裏書に代わるものとして日華興産株式会社の被控訴人に対する債務を保証する趣旨で控訴人が自から選んでなしたものであることは前認定のとおりであるから被控訴人が控訴人から本件手形の裏書譲渡を受けたことを目して暴利行為というのは当らない。このことは被控訴人が現に旧手形の所持を継続することにより左右されるものではない。

されば、被控訴人の本訴請求は正当であるので、本件控訴はこれを棄却

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